限界マネージャーの観測日記[第21話]

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【審判の日】二つの道と、乾いたエール

「あと3ヶ月」の期限が切れた日。 私は、会長の応接室にいた。 社長、そして人事部長。並み居る重鎮たちを前に、人事部長が静かに問いかける。

「彼のことですが、この3ヶ月で改善はありましたか?」

私は何も言わず、ただゆっくりと、深く、首を横に振った。 その瞬間、室内を支配したのは、会長と社長が漏らした「やはりか」という落胆の吐息だった。

やがて連れてこられた彼は、部屋の隅で所在なげに立っていた。 社長は、手元の資料に目を落とすことすらなく、彼がこれまで積み上げてきた不誠実の記録を、淀みなく、冷徹に語り聞かせた。それは、私と共に彼を支えようと苦悩してきた経営陣の、最後で最大の「向き合い」だったのかもしれない。

そして、突きつけられた二つの選択肢。 「会社都合での退職」か、あるいは「1年間の過酷な現場勤務」か。

現場は、内勤とは比較にならないほど時間が厳格で、肉体も精神も追い込まれる。私から見れば、今の彼に務まるはずのない、あまりにも高いハードルだった。 しかし、彼は迷わず後者を選んだ。

「現場で、頑張らせてください」

翌週の月曜日。 定時の15分前。いつもなら遅刻の常習犯だった彼が、作業着に身を包み、私のデスクの前に立っていた。

「今までご迷惑をおかけしました。1年頑張って、必ず戻ってきます。言われたことを心に留めて、仕事の結果でお返しします」

かつての「サーセン」とは打って変わった、殊勝な言葉。 以前の私なら、その姿に目頭を熱くしたかもしれない。だが、今の私の心に去来したのは、感動でも期待でもなく、ただ冷え切った「諦観」だった。

「……がんばってこい」

絞り出したその一言は、私にできる最後の、そして最も空虚な餞別だった。 彼の背中を見送りながら、私は確信していた。 その決意が、一週間も持たないであろうことを。 10年かけて一度も咲かなかった花が、環境を変えただけで突然咲くはずがないのだ。

原案:限界マネージャー
構成:高井優希
編集:Mini=G

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