【保留の地獄】「様子見」という名の支配、そして歪んだ敬語
私は、自分の心を殺すことに決めた。 あのPCの中にあった、私を「ボケ老人」と罵り、すべての責任を放棄する呪詛の言葉。それを見なかったことにし、私は再び彼の上司としてデスクに座った。 そうしなければ、この部署というシステムが崩壊してしまうからだ。
一ヶ月の療養を終えて現れた彼は、憎らしいほどに「健康」そのものだった。 ツヤツヤした肌、輝く瞳。旅行でリフレッシュした成果が全身から溢れ出している。 だが、私はもう騙されない。期待という名の毒を、自分に盛ることは二度としない。
「どうせ、また裏切られる」
私の予想は、1ミリの狂いもなく的中した。 無断欠勤こそ減ったものの、月曜日になると決まってスマホが震える。
「熱が出た」
「風邪っぽい」
「腰が痛い」
そして、私を最も苛立たせたのは、彼が編み出した「様子見」という悪魔のカードだった。
「体調が悪いので、午前中様子を見ます」
この連絡が来た瞬間、私のスケジュールは宙吊りになる。 来るのか、来ないのか。代わりの人員をいつまで拘束すべきか。すべての決定権は彼に握られ、私は彼の「気分」という名のブラックボックスを監視し続ける羽目になる。
そして案の定、午後の始業時間を過ぎてから、追加の連絡が入る。
「やっぱり体調が良くないので、今日は休みにします」
……休みに「します」?
「休ませてください」ではない。彼はまるで、自分の権利を当然のように行使する決定権者であるかのように、欠勤を「宣言」するのだ。
謝罪のニュアンスが欠落し、あたかも「自分が休むことを決定したから、お前はそれに従え」と言わんばかりの歪な言葉選び。 10年という月日を経て、彼は「技術」を磨く代わりに、いかにして「上司をコントロールし、自分の怠惰を正当化するか」という卑屈な政治学だけをマスターしてしまったようだった。
それでも、私は耐えた。 まだ、私の中の「何かが切れる音」はしていなかったから。 しかし、その限界点は、すぐそこまで迫っていた。

構成:高井優希
編集:Mini=G


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