【裁きのカルテ】会議室のモニターに映る、10年目の終止符
社長からの「ちょっといい?」という呼びかけ。 それはいつもの気軽な相談ではなく、どこか湿り気を帯びた、重い響きだった。
案内された会議室。そこにいたのは、社長だけではない。会社の重鎮である会長までもが、険しい表情で座っていた。
「彼のことなんだけどね」
会長がリモコンを操作すると、モニターに映し出されたのは、私が日々記録していた朝のミーティングメモだった。 「今日中に完了させる」という彼の空疎な宣言。 「忘れていました」「サーセン」という不誠実な言い訳。 そして、突発的な欠勤と「様子見」の履歴。
私が感情を排して、ただ淡々と、冷徹に積み上げてきた「事実」の羅列。それが今、組織の最高意思決定機関の前で、動かぬ証拠として牙を剥いていた。
「念のために聞くが、ここに書かれている記録は、すべて間違いない事実なんだね?」
会長の低い声が室内に響く。私は迷わず答えた。 「間違いありません。すべてその日に起こった事実です」
私の言葉に、会長は深く、重い溜息をついた。かつては彼に期待をかけていたであろう会長の胸中にも、もはや救いようのない絶望が広がったのだろう。
「……君には申し訳ないが、あと3ヶ月だけ様子を見させて欲しい」
あと3ヶ月。それは彼に与えられた「最後の猶予」であり、私にとっては「終わりの見える地獄」の期限だった。
会議室を出て、私は久しぶりに深く息を吸い込んだ。ようやく出口が見えた。あと90日耐えれば、この不毛な日々から解放される。
しかし、自席に戻った私を待っていたのは、相変わらずの「不在」だった。 他の社員に尋ねると、呆れた顔で答えが返ってきた。 「あなたが呼ばれて席を立った直後、スマホを持ってどこかへ行きましたよ。まだ戻りません」
私とトップが彼の人生を左右する決断を下している最中、当の本人は、勤務時間中にスマホをいじってどこかでサボっている。 「あと3ヶ月」 その言葉が、私の心に鉛のように重く、しかし確かな終焉の響きを持って沈んでいった。
構成:高井優希
編集:Mini=G


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