限界マネージャーの観測日記[第10話]

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【私生活の侵食】「彼女ができました」という名の免罪符

ある日、彼はいつになく弾んだ声で私に告げた。 「彼女ができたんです」

上司として、私は素直に「それはおめでとう」と返した。不毛な業務管理に追われる日々の中で、彼のプライベートに明るい話題が出たことに、どこか安堵したのかもしれない。 だが、その祝辞は、私自身が自分の首を絞める合図に過ぎなかった。

その日からだ。彼の「遅刻」と「突発欠勤」の頻度が、まるでアクセルを踏み込んだかのように加速していったのは。

もともと彼は、毎年有休を使い果たし、欠勤日数が2桁に達するのが「平常運転」という、社会人としての基礎体力が著しく低い男だった。しかし、彼女という存在を得てから、その言い訳のバリエーションは百花繚乱の様相を呈した。

「寝坊しました」 「風邪っぽいです」 「腰が痛いです」 「彼女が熱を出して寝込んでいるので」 「彼女を車で送っていかないといけなくて」

昨日「高熱で寝込んでいる」と欠勤連絡をした男が、翌日、誰よりも艶やかな顔色で、マスクもせずに「おはようございます」と現れる。その神経の太さには、呆れるのを通り越して、もはや一種の「芸術性」すら感じてしまう。

最も頭を抱えたのは、連絡が途絶えることだった。 朝の定時を過ぎ、1時間、2時間……。こちらの電話にも一切出ない。 事故にでも遭ったか? 自宅で倒れているのか? いよいよ緊急事態を想定して家まで向かおうかとした16時過ぎ、スマホに彼からの着信が入る。

「……あ、すみません。寝てました。今から行った方がいいですか?」

16時に起きて、そこから会社に向かって、何をするつもりなのか。 「来い」と言えば「遅れても行ったのに怒られた」と被害者を演じ、「来なくていい」と言えば「来なくていいと言われたから休んだ」と責任を転嫁する。 彼の問いかけは、常に行動のためではなく、「責任の所在をこちらに押し付けるため」のものだった。

仕事中も、彼は頻繁に私用スマホを確認し、席を立っては戻らない。 注意をしても、指導をしても、その場では「はい」と答えるが、翌日には新しい言い訳とともに「彼女」の影が仕事場を侵食していく。

幸せの絶頂にいるはずの彼は、その幸せを理由に、プロとしての最後の矜持すらも投げ捨てようとしていた。

原案:限界マネージャー
構成:高井優希
編集:Mini=G

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