弘法筆を選ばず、凡才「筆を100回選ぶ」
部下の「半分遊んでました」宣言に、私の心は一度死んだ。 しかし、上司という生き物は、死んでもなお「管理」という名の呪いからは逃れられない。
「仕事が進まないのは、モチベーションのせいではなく、仕組み(ツール)のせいだ」
よくあるマネジメントの金言を、私は自分に言い聞かせた。 いや、正確にはこう思っていた。 「後で会社から責任を問われた時、『私はあらゆる環境を整えました』と胸を張って言えるだけの証拠を作ってやろう」
こうして、私と彼の「不毛なツール・ジプシー」の旅が始まった。
まずは王道のガントチャート。 スケジュールを可視化し、遅れを明確にするためだ。しかし、彼は画面をひと目見るなり、深い溜息をついた。 「これ、見づらくて分かりにくいんですよね。もっと直感的な、カンバン形式がいいです」
……わかった、カンバンにしよう。 私は夜を徹してタスクをカード化し、ボードを整えた。しかし数日後、彼はまた不満を漏らす。 「カンバンだと一画面に収まらないのがストレスなんです。リスト形式がいいです」
……わかった、リスト形式だ。 視認性を上げるため、締切間近のものは赤字に、超過したものは太字に。私がExcelや管理ツールをカスタマイズする時間は、本来の業務時間をじわじわと侵食していった。
だが、極めつけはこれだった。 「リスト形式だと、『今日やるべきこと』がパッと見えないんですよね」
それを決めるのが、君の仕事(タスク管理)ではないのか? 喉元まで出かかった言葉を飲み込み、私はついに、最強の自由度を誇る某有名タスク管理ツールへ全データを移行した。 さらには、彼専用の「今日の作業一覧」を毎朝私が手作りするという、もはや介護の領域にまで踏み込んだのである。
それでも、数週間後に彼が放った言葉を、私は一生忘れない。
「これ(上司が作った作業一覧)、確認するの面倒なんですけど。」
私は静かに目を閉じ、深いため息を吐いた。 この時、悟ったのである。 彼は「使いやすい筆」を探しているのではない。「書かなくて済む理由」を探しているだけなのだということを。
構成:高井優希
編集:Mini=G


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