灯-AkarI-

短編

彼は、いつも点いている

彼は、いつも「点いている」人だった。朝は誰よりも早くオフィスに明かりを灯し、夜は誰よりも遅く、最後のスイッチを切って帰る。困っている同僚がいれば迷わず声をかけ、厄介なトラブルが起きれば、波風を立てぬよう静かに引き受ける。端正な顔立ちに、定規...
短編

灯りは揺れている

祖父の家の縁側には、古びた行灯(あんどん)が置かれていた。薄い和紙の向こう側で、小さな電球が低い温度の橙色を灯している。最新の照明のような刺さる白さはない。部屋の隅々まで照らし出すほどの力も、もちろんない。ただ、そこに「いる」というだけの、...
短編

光が曲がった先

私の人生は、定規で引いたように真っ直ぐだった。望まれるような成績を取り、堅実な大学へ進み、誰もが知る安定した企業に就職した。福利厚生も将来性も、何ひとつ文句はない。上司は穏やかで、数年後の昇進ルートも、定年までの景色も、ぼんやりと見えていた...
短編

光が消えかけた夜

その日まで、私は自分なりに、誠実に、ちゃんと頑張ってきたつもりだった。朝は誰よりも早くデスクにつき、頼まれごとは一度も断らず、ミスをすれば、倍の速さで取り返した。飲みの誘いも、週末の旅も、すべて「いつか」に先送りした。「今は踏ん張りどきだか...
短編

光り方を間違えた日

四月の終わり、私はまだ「新人」と呼ばれることに、少しだけ甘えていた。配属されて三週間。名刺交換も、電話応対も、ようやく板についてきたころ。そんなある日、私は小さな“光”を任された。「次のキャンペーン、若い層を取り込みたいんだよね」会議室で上...
短編

風の置き手紙

その町には、ゆっくりと風が通る。電車は一時間に一本。改札を出ると、商店街は短く、空はやけに広い。昔ながらの八百屋と、少し傾いた理髪店。どこかで揚げ物の匂いがして、遠くで犬が吠える。久しぶりに降りたその駅で、私は立ち止まった。子どものころ、夏...
短編

灯のつく日

秋が、静かに深まるころのことだった。古い商店街の外れに、いつの間にか小さな店ができていた。木の引き戸に、白い文字でこう書いてある。―― 灯(あかり)灯のつく日店の前を通るたび、私は気になっていた。店の名前らしき文字以外、看板も、宣伝もない。...