【ゲーム・オーバー】「やり切った」という名の終焉
失踪から三日。 現場責任者の元にかかってきた彼からの電話。その内容は、私たちの想像力の限界を遥かに超えるものだった。
「朝、車に乗るところまでは良かったんです。でも、行く気になれなくて……。あの日、ずっと楽しみにしていたゲームの発売日だったんですよ」
現場責任者は、体育会系の熱い男だ。本来なら受話器が壊れるほどの怒声が飛んでもおかしくない場面。だが、彼は怒鳴らなかった。あまりにも次元の違う「言い訳」に、怒りの沸点を超えるどころか、脳が理解を拒否したのだろう。
「めいっぱいやり込んでクリアしたんで、明日からは仕事できます」
彼は、誇らしげにさえ聞こえる声でそう付け加えたという。 自分が無断欠勤し、消息を絶っている間、現場の人間がどれほど汗を流し、会社がどれほど頭を下げ、私がどれほど空虚な思いで彼のログを付けていたか。 それらすべては、彼がテレビの前でコントローラーを握り、仮想世界の敵を倒す時間の「ノイズ」に過ぎなかったのだ。
「……後で連絡する」
そう言って電話を切った現場責任者の判断は、まさに「ナイス」と言う他なかった。 ここで怒鳴りつければ、彼はまた「パワハラだ」「体調が悪くなった」と、被害者の仮面を被る隙を与えてしまう。沈黙こそが、彼という人間に対する最も正当な評価だった。
報告は、現場から社長へ、そして会長へと瞬く間に駆け巡った。 彼が自ら繋ぎ止めようとした「最後の糸」は、ゲームのエンディングロールと共に、プツリと、呆気なく断ち切られた。
私の元にその知らせが届いた時、不思議と「ついにこの時が来たか」という解放感すらあった。 10年。長すぎた。 一人の男を一人前の社会人にしようと足掻いた私の10年は、ゲームソフト一本に敗北したのだ。
原案:限界マネージャー
構成:高井優希
編集:Mini=G
構成:高井優希
編集:Mini=G



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