AIの傀儡 ~経験10年の「ベテラン新人」と、中身のない魔法~
「実務経験10年」 履歴書にその一行があれば、誰もが「熟練の職人」を想像するだろう。 だが、彼という男を10年観測し続けた私の結論は違った。彼は「10年の経験」を積んだのではなく、「1年の経験を10回繰り返した」のでもなく、「昨日の自分を毎日リセットし続けた」だけなのだ。
例えば、ミカン1kg用の段ボール箱を組み立てた経験がある彼に、2kg用の箱をお願いしたとする。 組み立て方は、構造も手順も全く同じ。違うのはサイズだけだ。 しかし、彼は平然と言い放つ。 「2kgの箱は初めてなので、経験していません。ゼロから勉強します」
……嘘だろう? 99%が同じでも、残り1%が違えば、彼の中では「未知の宇宙」が誕生する。 応用、類推、汎用化。エンジニアが持つべき「点と線を繋ぐ能力」が、彼の脳には一切インストールされていない。
そんな彼が、ついに「最強の杖」を手に入れた。AI(人工知能)である。
「完成しました。問題ありません」 彼から提出されたコードは、一見するときれいに動いているように見えた。 だが、中身を確認した私は凍りついた。
「この処理、もし想定外のデータが入ったらどうなる? ここでエラーを吐く可能性があるよね?」 私の問いに、彼は無表情でこう答えた。 「さあ……。AIが『問題ない』と言って出したコードなので。僕は知りません」
彼は、AIが吐き出したソースコードを一文字も読み取っていなかった。 どのようなロジックで動いているのか、なぜその関数が使われているのか。 彼にとってコードは「理解するもの」ではなく、「AIに丸投げして、自分の責任を消去するための呪文」に過ぎなかったのだ。
当然、仕様の詰めが甘いAIのコードは、現実の複雑なデータに直面してエラーを吐き出す。 だが、彼は謝らない。 「僕の指示不足じゃなくて、AIが思い通りに作ってくれないのが悪いんです」
10年という歳月をかけて、彼が習得した唯一のスキル。 それはプログラミングではなく、「あらゆる不備を自分以外の何かのせいにする、鉄壁の責任逃れ術」だった。
構成:高井優希
編集:Mini=G



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