ステルス・ゲーミング ~画面切替速度だけはeスポーツ級~
「ねえ、あの人……本当に仕事してるの?」
同僚からのそんな囁きが、私の耳に届き始めたのは一度や二度ではない。 最初は「慣れない実務に戸惑っているのだろう」と庇っていた私だったが、寄せられる報告は、私の「善意」を木っ端微塵にするものばかりだった。
「いつもゲームの攻略サイトを見てる気がする」 「アニメキャラのアイコンが動くチャット画面がチラッと見えた」 「誰かが通りかかると、神速でウィンドウを最小化して隠してるよね」
極めつけは、「2時間に1回、スマホを握りしめてトイレの個室に20分こもる」という精密な観測結果だった。
私の視界の中でも、彼の異様さは際立っていた。 画面を見つめたまま、15分間指一本動かさない。思考しているのかと思いきや、その瞳は「熟考」ではなく「放心」に近い光を湛えている。 そして一度席を立てば、帰還するのは20分後。もはやトイレではなく、どこか別の次元へ旅に出ているのではないか。
そんなある日、私が有給休暇を取っていた日のことだ。 平和な休日を過ごしていた私のスマホに、同僚から一通のメッセージが届く。
「今日、社長がフロアに来て、彼の画面を見てブチ切れてました……」
話を聞けば、フロア全体に響き渡るような声で、社長が彼にこう言い放ったという。
「お前、仕事中にゲームやってるのか!?」
確証はない。だが、火のない所に煙は立たない。 何より、トップが直接「黒」だと断じるほどの空気が、彼の周りには漂っていたのだ。
翌日、出社した私が目にしたのは、何事もなかったかのように「画面を見つめてフリーズしている」彼の姿だった。 社長に一喝されてなお、そのスタンスを崩さない。
「なるほど、言葉ではもう届かないのか」
私は静かに、マウスを握りしめた。 もはや「信じる」フェーズは終わった。 ここからは、彼が逃げも隠れもできないよう、一分一秒の挙動を白日の下にさらす「タスク管理の檻」を構築するしかない。
構成:高井優希
編集:Mini=G


コメント