モノクローム・ハイウェイ[第3話]

アイキャッチ[モノクローム・ハイウェイ]

銀色の再会

エンジンを止めると、世界は完全な静寂に支配された。
カチッ、カチッ……という、熱を持ったマフラーが冷えていく金属音だけが、モノクロの空気の中に溶けていく。

私は、吸い寄せられるように車を降りた。
潮風が頬を撫でる。だが、その風には色がなかった。舞い上がる砂も、遠くで砕ける波しぶきも、すべてが古い銀塩写真のような質感で固定されている。

その中で、二台の車だけが、まるで舞台照明を浴びているかのように鮮やかな色彩を放っていた。

一台は、私の相棒。最新型のモデルだ。
鋭いLEDの眼差しと、空気の壁を切り裂くような流線型のボディ。燃えるような、あるいは漆黒のような、深みのある塗装がモノクロの世界を拒絶するように輝いている。

そして、その数メートル先。
私の車の影を踏むようにして停まっているのが、もうひとつの「色」だった。

「……嘘だろ」

声が震えた。
そこにいたのは、今の私の愛車のご先祖様にあたる、三十年以上前の旧型モデルだった。
現代の車にはない、定規で引いたようなスクエアなフォルム。細いピラーと、小ぶりなミラー。フロントグリルには、誇らしげに当時のエンブレムが冠されている。

そして何より、そのボディカラー。
父が週末ごとに、バケツとスポンジを持って「車っていうのはな、磨いた分だけ応えてくれるんだ」と笑いながら磨き上げていた、あの濁りのない、透き通ったシルバー。

私はふらふらと、その銀色の車に歩み寄った。
近づくにつれ、記憶の断片が鮮烈に呼び起こされる。

リアウィンドウの隅に貼られた、地元の神社の色褪せた交通安全のお守り。
左側のバンパーの下に、私が自転車をぶつけて作ってしまった、小さな、本当に小さな凹み。
父はあの時、「形あるものはいつか壊れる。直せばいいだけだ」と言って、泣きじゃくる私を叱りもせず、大きな手で頭を撫でてくれたのだ。

私は、その銀色のボンネットにそっと手を触れた。
冷たいはずの金属から、不思議な微熱を感じた気がした。それは、つい数分前まで誰かがハンドルを握り、この場所まで走らせてきたという「生命の余熱」だったのかもしれない。

ふと、運転席のサイドウィンドウに目をやる。
そこには、反射するモノクロの空と、そこに映り込む「今の私」の姿があった。

ハイテクな多機能ウェアを纏い、最新の車を操ってここへ来た私。
けれど、この鏡のような塗装の中に映る瞳は、あの頃、父の助手席でハンドルを握る横顔を憧れとともに見つめていた少年のそれと、何も変わっていなかった。

「親父……そこに、いるのか?」

視線を車内へと移した。
使い込まれたマニュアルのシフトレバー。ダッシュボードには、懐かしいフォントの地図が広げられている。

そして、その車から少し離れた、崖の淵。
手すりに寄りかかり、色のない海を見つめている一人の男の背中が、ゆっくりとこちらを振り向こうとしていた。

原案:ALUM
構成:高井優希
編集:ALUM

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