魂の駆動OS Episode 11:塔の前で立ち止まった

Epic Chronicle

魂の駆動OS

― 噛み合わない歯車たちの叙事詩 ―

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Episode 11

塔の前で立ち止まった

── Previous Episode ──

ガレオンが単独離脱した。半日後、三人が追いついた。「ガレオンは怒っていたんじゃなく、怖かった」というフィリアの言葉が、アルディスのフリーズを解いた。「自分への苛立ちだった」と言えたガレオン。セレナの「四人とも、自分のOSに苦しんでいる」という静かな言葉。ひびの入った歯車が、また動き出した。

終焉の塔に着いたのは、尾根を下りてから半日後だった。

塔は、想像していたより静かだった。

高さは王城の倍ほどある。黒い石でできていて、表面には無数の紋様が刻まれている。紋様はよく見ると歯車の形をしていて、それが塔全体を覆うように螺旋を描いていた。

扉はなかった。入口に相当する場所には、ただ暗い穴がある。風が、そこから吹き出していた。冷たい風だった。

Philia

「……でかい。思ってたよりでかい」

Galeon

「黙れ。中に聞こえるかもしれん」

Philia

「……(小声で)でかい」

Serena

「内部構造についての記録が、資料の第十二章に……えっと、魔力の流れが複雑で、察知魔法が干渉される可能性があるそうです。中では頼りにならないかもしれません」

四人が塔の前に立っていた。 入口の風が、ざわざわと吹き続けていた。

アルディスは、塔を見上げたまま、動かなかった。

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「行きましょう」と言うはずだった。 それが手順だった。到着したら、次は内部の確認。それが次の手順だ。

なのに、足が動かなかった。

▶ OS:ロジカル・アイアン 処理ログ

▶ 現在地:終焉の塔・入口

▶ 次の手順:内部へ進む

▶ 実行:……保留中

▶ 理由:不明。手順は明確だ。障害もない。

▶  なのになぜ、足が動かないのか。

▶ 処理中……処理中……

Philia

「……アルディス、どしたの」

Aldis

「少し、待ってください」

自分で言っておきながら、何を待つのか説明できなかった。

ガレオンとフィリアとセレナが、黙って待っていた。 急かさなかった。

その静けさが、かえってアルディスの中に染みてきた。

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アルディスは、自分が何を考えているのか、ゆっくりと言葉にしてみようとした。

この旅を通じて、手順を信じてきた。手順が正しければ、結果もついてくると思ってきた。でもセレナは確認なしで前に出た。フィリアは立ち止まって追いかけた。ガレオンは矢印だけを残して一人で動いた。そして三人とも、自分なりの形で、正しいことをした。

手順なしに。

▶ OS:ロジカル・アイアン コアログ(制限解除)

▶ 問い:なぜ自分は手順を信じてきたのか。

▶ 表層回答:「手順があれば間違えない」

▶ 深層回答:……「間違えるのが、怖かった」

▶       「手順がなければ、自分には何もない気がしていた」

▶ 追加処理:

▶  元の世界で、毎日資料を作り、手順を確認し、承認を取っていた。

▶  それが「正しい自分」の証明だった。

▶  手順を守ることが、自分の存在理由だった。

▶ 問い:ではこの旅で、手順を破ったとき、自分は何者だったか。

▶    ガレオンの隣に座ったとき。フィリアに謝ったとき。

▶    手順ではなく、ただそうしたかったから、そうしたとき。

▶ 回答:……それも、自分だった。

▶ 結論:手順は道具だ。自分ではない。

その結論に辿り着いたとき、アルディスは少し、息が楽になった。

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Aldis

「……一つ、聞いてもいいですか」

三人が振り向いた。

Aldis

「この旅が終わったら、みなさんはどうしますか。帰って、それから」

唐突な問いだった。でも三人は、笑わなかった。

Philia

「ソラのごはん補充して……それから、ちゃんと授業出ようかな、と思ってる。面白い授業だけ」

Galeon

「レオに会う。それだけだ。……それから先は、まだわからん」

Serena

「神殿に謝りに行って……もし許してもらえたら、また修行を続けます。でも今度は、もう少しだけ、確認の回数を減らしながら」

アルディスは、三人の答えを聞いた。

帰る理由があって、帰ってからやることがある。
それだけで、人は前を向けるものなのか。

自分は、まだ「帰ってから何をするか」がわからない。
でも今、初めて、それを「わからなくてもいい」と思えた気がした。

Aldis

「……私は、帰ったら、もう少しだけ手順を手放してみようかと思っています。何をするかは、まだわかりませんが」

Philia

「それ、いいと思う。アルディスが手順なしで動いたら、どうなるんだろ。ちょっと見てみたい」

Galeon

「……笑えそうだな」

Aldis

「……そうかもしれません」

笑った。 四人で、塔の前で、笑った。

それは奇妙な光景だったかもしれないが、アルディスには、これまでの旅で一番自然な瞬間のように思えた。

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笑いが収まったころ、ガレオンが入口を見た。

Galeon

「……行くか」

Philia

「行く!」

Serena

「あの……出発前に確認事項が……三項目だけ、三項目だけですから」

Galeon

「……三項目だけだな」

Serena

「はい、三項目だけです!」

アルディスは、最後にもう一度、塔を見上げた。

▶ OS:ロジカル・アイアン 更新ログ

▶ 手順は道具だ。自分ではない。

▶ 道具を使うのは自分だ。道具に使われるのではない。

▶ 新しい手順①:塔へ入る

▶ 新しい手順②:……それ以降は、入ってから考える。

▶        それでいい、と今は思う。

▶ 処理継続。

四人が、塔の入口へ踏み込んだ。

冷たい風が、後ろから押すように吹いた。

――終焉の塔。最深部へ、続く。

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― Episode 11 了 ―

次回「Episode 12:塔の中で、歯車が軋む」

紡 -Tsumu-

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