限界マネージャーの観測日記[第20話]

アイキャッチ[限界マネージャーの観測日記]

【色彩を失う回想】親愛という名の搾取、そして虚無

「あと3ヶ月」

その言葉がゴールテープに見えると思っていた。だが、私の心に広がったのは、重く冷たい泥のような感情だった。 ふとした瞬間に、彼と過ごした10年の記憶が走馬灯のように駆け巡る。

入社したての彼。私は彼を弟のように可愛がった。 「飯、行くか」と誘い、彼が大好きだったボーリングに何度も連れて行った。費用はすべて、私が出した。 仕事で壁に当たれば「大丈夫だ、俺が責任を取る」と背中を押し、プロジェクトが終われば「よくやった」と祝杯を挙げた。 あの頃の彼は、確かに輝いて見えた。将来有望な、私の自慢の部下になるはずだった。

……はずだった。

思い出を辿っていた私の思考が、ある一点で不自然に止まる。 「あれ? そういえば……」

食事に行けば、私が払う。遊びに行けば、私が払う。飲みに行けば、私が払う。 いつからだろうか。彼がレジの前で財布を出すことすらなくなり、ついには「最初から財布を持ってこない」ようになったのは。

輝いていたはずの「あの頃」の記憶から、急速に色が抜けていく。 私が彼に注いできた情熱や金、そして時間は、彼を育てるための投資ではなく、ただ彼という底なし沼に吸い込まれて消えただけの「供物」だったのではないか。

「……いいように、使われていただけだったのか」

10年。10年だ。 一人の人間が一人前になるには十分なその月日をかけて、私は「自分を都合よく利用する人間」を飼い慣らしていただけだったのか。 押し寄せてくるのは怒りよりも、言葉にできないほどの巨大な虚無感だった。

そんな私の心境など、彼は知る由もない。 「3ヶ月」の宣告を受けてなお、彼は相変わらずのペースで生きている。 今日も連絡なく遅刻。昨日は当たり前のように欠勤。

私の10年は、彼にとって「ただの便利な無料パス」に過ぎなかったのだ。 崩れ落ちた過去の残骸を見つめながら、私はあと90日、この「虚無の椅子」に座り続けることを自分に強いた。

限界マネージャーの観測日記[第21話]
【審判の日】二つの道と、乾いたエール「あと3ヶ月」の期限が切れた日。 私は、会長の応接室にいた。 社長、そして人事部長。並み居る重鎮たちを前に、人事部長が静かに問いかける。「彼のことですが、この3ヶ月で改善はありましたか?」私は何も言わず、...
原案:限界マネージャー
構成:高井優希
編集:Mini=G

コメント

タイトルとURLをコピーしました