【暴かれた聖域】SNSの残像と、PCの中に潜む毒
「療養が必要」という診断書を盾に、彼は二度目の休職に入った。 不摂生による極度の衰弱。そう聞いていたはずの私の目に、信じられない光景が飛び込んできた。 たまたま見つけてしまった、彼のSNSアカウント。
そこには、奥様と楽しげに観光地を巡り、豪華な食事を前に満面の笑みを浮かべる彼の姿があった。 行き先ひとつひとつを丁寧に、まるで実況中継するかのように投稿される写真。 「衰弱」の文字はどこにもない。そこにあるのは、会社を、そして私を欺いて手に入れた、あまりにも身勝手な「バカンス」の記録だった。
私は、この事実を誰にも言えなかった。社長に言えば、彼は即座に破滅するだろう。だが、それを隠し持っている自分の心も、少しずつ毒に侵されていくのを感じていた。
そんな中、さらなる追い打ちが私を襲う。 彼が放置したままの作業を代行するため、システム管理者の立ち会いのもと、彼のPCにログインした時のことだ。
PCが起動し、自動的に立ち上がった彼の記録用エディタ。そこに並んでいたのは、業務メモではなく、私への、そして会社への、剥き出しの憎悪が詰まった「毒の記録」だった。
「○月○日、ボケ老人(上司)が勝手に決めたスケジュールを押し付けられた。無理難題ばかりだ」
「○月○日、やり方が違うと言われた。指示が悪いくせに人のせいにする。辞めたい理由の9割はおまえにある」
「おまえが責任を取る立場。僕に責任はない」
画面が滲んで見えた。 彼が「経験がないから1%の違いも認めない」と駄々をこねていた時も、「1秒のウェイト」を鼻で笑っていた時も、私は必死に、彼をプロのエンジニアとして育てようとしていた。
だが、彼にとって私の指導はすべて「老人の戯言」であり、自分のミスはすべて「私の責任」として処理されていたのだ。
「……もう、限界だ」
彼のPCの前で、私は初めて自分の心が折れる音を聞いた。 彼を守ろうとしていた私の善意は、彼という深い闇の中で、跡形もなく食いつぶされていたのだ。

構成:高井優希
編集:Mini=G



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